進歩した市販のMWIRイメージングシステムで、開発時間を2年短縮
MWIR向けの連続ズームレンズ統合型ソリューション
中波赤外線(MWIR)カメラは、防衛、対UAS、セキュリティ、UAS、その他の長距離監視アプリケーションで、1キロメートル(km)以上の距離からもクリアな赤外線詳細画像が得られるソリューションとして長年にわたり推奨されてきました。このようなイメージング要件を満たすために、中波赤外線カメラは一般的に、連続ズーム(Continuous Zoom: CZ)レンズアセンブリが統合されています。カスタムカメラやCZレンズの開発には時間とリソースの面でコストがかかります。そして、複雑になる可能性もあります。しかし、MWIRプラットフォーム開発で利用できる市販ソリューションの最近の技術的ブレークスルーによって、インテグレーターたちは大幅なコスト削減、性能の最適化、技術的リスクの低減、スケジュールの改善を実現できるようになりました。インテグレーターたちは、2年以上もの開発期間の短縮を見込むことが
できます。
従来、MWIRイメージングプラットフォームのインテグレーターは、複数のメーカーとやり取りをして、センサーアセンブリ、 光学系、電気サブシステムのコンポーネントを調達する必要がありました。2021年以降、Teledyne FLIRは複数の新しいMWIRカメラとCZレンズアセンブリをリリースしています。これによりインテグレーターは、単一の製造パートナーから既製のシステムやセミカスタムシステムを手に入れることができるようになり、設計、統合、サービス、サポートの点でもメリットを得ることができます。
本論文では、MWIRイメージングプラットフォーム設計における従来の課題の数々について考察し、単一のソリューションプロバイダーを活用することで、サイズ、重量、性能(SWaP)を改善しながら、市場投入までの時間を短縮し、複雑さを低減し、手頃な価格に近付けるかについて説明します。
MWIRカメラとCZレンズ技術の進歩
高動作温度型(HOT)MWIRセンサーの進歩により、カメラシステムレベルでSWaPの改良がなされ、同時に画像化までの時間が短縮されました。HOT MWIRカメラモジュールはこれにより、UAS、インテリジェンス、監視、偵察(ISR)、兵器観測などの携帯型アプリケーションにパーフェクトな選択肢となりました。
同様に、MWIR CZレンズ技術も重要な進歩を遂げています。可視ズームレンズとは対照的に、MWIR CZの光学系は、海外製の材料が必要であったり、ズーム全域で焦点を維持しなければならない(特に広い温度範囲で動作しながら)という固有の課題もあり、複雑かつ高コストでありました。今回、改良されたエンジニアリング設計ツール、新たに採用された光学材料、自動化された製造技術によって、インテグレーターは新しいSWaPと性能が最適化されたCZレンズアセンブリを使って開発を楽しんでいただけます。
従来の設計上の課題
図1. 19-290 CZレンズが統合されたTeledyne FLIR Neutrino LCのアセンブリ分解図
MWIRカメラシステムは、複数のサブシステムから構成されています。左から右へ見ていきます(図1)。連続ズーム光学系は、カメラに対して視野(FOV)や光学倍率を決定します。このレンズはMWIRのエネルギーを収集し、一体型デュワー・クーラー・アセンブリ(IDCA)にパッケージ化されている焦点面アレイ(FPA)に集束させます。カメラの電気系は、IDCAからの情報を、カメラ出力やコマンド&コントロールソフトウェアをサポートする、使用可能なデータまたは画像へと処理します。
これらのソリューションを調達し統合するための従来の方法では、往々にして、別々のサブアセンブリ要件を開発し、複数の調達元と協力し合ってMWIR CZシステムを開発する必要がありました。別々にサブアセンブリ要件を開発する場合、インテグレーターは複数の性能パラメータを検討し、それらをシステムレベルで統合して、レンズメーカーとIDCAベンダーをサポートする必要があります。考慮事項例については、以下の表1を参照してください。独自の要件があり、タイムラインが長く、十分資金のあるプロジェクトでは、この従来のやり方でも機能しますが、CMOSカメラソリューションと同じく、手頃な価格で、市販品の高性能ソリューションを少しでも早く供給できる単一サプライヤーからソリューションを調達することに尽力することにより価値を見出すよう、業界は動いています。
さらに、表1に記載される考慮事項に加えて、これらのMWIR撮像システムは、互換性のトレードオフによって、システム性能や信頼性も低下してしまう可能性があります。これにより、システム開発プロセス、インテグレーション、調達、製造、最終的なシステム・サポートにおける効率低下や不要な複雑さが増加してしまうことにつながる可能性があります。
表1. CZ光学系を搭載したMWIRカメラの設計上の考慮事項の例
ズーム光学系 | カメラと電子系 | ソフトウェアおよび駆動電子系 |
温度に対する性能 | 解像度とピクセルサイズ | 制御 |
マウント | フレームレート | データインターフェース |
フォーカスシフト | 波長とf/# | パワースループット |
公差分析 | 画像処理 | カメラ通信 |
視野角とズーム範囲 | 信頼性(MTTF) | |
DRI | ビデオフォーマット | |
サーマル補正 | サイズと重量 | |
範囲補正 |
別々のサブシステムの統合とサポート
設計後に、複数のベンダーのサブシステムを統合することは、さらなる課題をもたらすことがあります。赤外線CZレンズは極めて複雑で、正確な5軸アライメントが必要です。これには多額の設備投資が必要となります。コリメータ、温度チャンバ、ブラックボディー、MTFテスト機器、振動テストステーションなどの機器を購入すると、40万ドルを超える可能性があります。この統合をサポートするためには、専門性の高いテスト技術者とエンジニアがトレーニングを受けなければならず、サポートのために資金を調達する必要もあります。各サブシステムも、統合とサポートの両方に対して複雑に絡み合うので、ソフトウエアプロトコルもサブシステムによって異なる可能性もあります。
統合化されたソリューションが現場に入ってしまうと、サポートとサービスを行うことも困難になる可能性があります。一般的に、顧客に対する技術サポートは、満足していただく解決を達成するために、インテグレーターがIDCAやレンズサブシステムベンダーと連携しながら対応する必要があります。サービスや修理のために返却されてきたユニットは、関連するサブシステムを追加対応のためにベンダーに返却する前に、インテグレーターによって処理され、取り外す必要もあります。このようなことで、時間と支出が増大します。
図2. サポートと保証サービスには、インテグレーターと主要サプライヤーからのインプットが必要
市販のソリューションとセミカスタムのソリューション
今までの話を要約すると、カスタムレンズ/カメラソリューションの開発とは対照的に、Neutrino® ISシリーズのような市販ソリューションは、以下のようなメリットでより優れた製品を提供します。
- 最適化されたSWaP、ユーザビリティ、画像性能
- 光学系とカメラ間の公差により、クラス最高のボアサイト保持を保証
- 簡素化された、共通の電気系とソフトウェア制御によりインターフェースまわりの問題を解消
- 可動部品、コネクター、ケーブル、ソフトウェアSDKの数を削減
- カメラとレンズは最高の画質を実現するために校正されており、工場で精密にアライメント済み
- すべてのサービスとテクニカルサポートの窓口を一本化
Teledyne FLIRでは、では、お客様のアプリケーションに適したソリューションを、既存の既製品またはNeutrino SWaPシリーズ共通のインターフェースからお選びいただけるよう、お手伝いいたします。セミカスタムソリューションは、カスタムソリューションよりも迅速かつ低コストで設計および統合をおこなうことができます。これによりインテグレーターは、IR検出器、冷却エンジン、ズームレンズ、カメラ/レンズ電子部品、パッケージなどを含めた数々のソリューションを一社のサプライヤーで提携することができます。
図3. Teledyne FLIR’のNeutrino ISシリーズポートフォリオ(2022年7月)
市場参入のインパクト
納期に応じて、時には3~4か月といった期間でも利用可能な幅広い市販ポートフォリオがあれば、インテグレーターは時間と開発コストを大幅に削減することができます。一方、通常約18か月を要するとされるセミカスタムソリューションでも、6~9か月以内に調達できます。これに対し、カスタムソリューションを使った調達プログラムの場合、開発者は要件の定義から最終認定までに24~30か月といった計画を立てる必要があります。ここで重要なのは、このようなカスタムソリューションは、市販の可視カメラシステムでは一般的に利用されているような、より高いレベルでのアセンブリを指定することで、大幅に合理化できますので留意してください。単一の垂直統合型ソリューションのプロバイダーたちと連携することで、設計サイクルが短縮され、調達プロセスが合理化され、信頼性の高いソリューションを作成する能力が向上します。
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図4. カスタム、セミカスタム、既製ソリューションの要件、開発、統合、適格性の比較