サーモグラフィカメラ活用事例 断熱DIYを通じ町民の力で巻き起こす「島の脱炭素化」

島根県隠岐郡海士町役場サーモグラフィカメラ活用事例

「海士町」と聞いて、場所を思い浮かべることはできますか? 海士町は島根県七類港あるいは鳥取県境港からフェリーで約3時間、隠岐諸島の島前三島のひとつ・中ノ島 を主島とする、1島1町の自治体です。人口減少をはじめとした、地方に共通する数多の地域課題を抱えながらも、これを「地域資源」と捉える逆転の発想で、教育や働き方改革など様々な分野において新たな地方自治体の姿を模索しています。
本アプリケーションストーリーでは、住民参加型の断熱DIYワークショップを企画、住宅の断熱改修を通して二酸化炭素(CO2)排出削減に取り組む海士町役場に所属し、島の建築の脱炭素化を担当する地域活性化起業人の林さんにお話を伺いました。

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運営、企画を担当する
海士町役場 林さん(中央)
大人の島留学生 神野さん(左)大人の島留学生 福永さん(右)

 

リソース不足を逆手に取り、断熱DIYで脱炭素化&快適に

一級建築士としてゼネコンで、建築の計画・設計等の仕事に携わっていた林さん。結婚・出産を機に退職したものの、島留学プログラムでお子さんが海士町の高校に入学したことをきっかけに、海士町の仕事に関わるようになったそうです。
そんな林さんが取り組むのは、「建築で支える、離島の持続可能なまちづくり」というコンセプトのもとに進める建築物の断熱化です。日本全体のCO2排出量のうち約3分の1が建築に関わるもので、建築分野が一丸となって脱炭素に取り組まなければ、削減目標に到達することはできないといわれています。
「離島という地理条件は人やモノの資源が限られる上に、物価が本土に比べて高いなど、暮らしやすさの面でも制約を受けがち。ですが断熱に取り組むことで、エネルギーに係るコストを減らしつつ快適性の向上も望めるので、島にいてより豊かな生活が期待できるのです」
海士町が現在進めているのが、新築の町営住宅の高性能化です。ただ、島内の多くの既存住宅が無断熱に近く、島内は深刻な大工不足であるうえに、断熱改修には大きな費用もかかる。それらの住宅の断熱化をどうするか、という課題があります。
「リソース不足に悩まされる一方、島民には『できることは自分たちでやろう』という気質がありました」と林さんは続けます。なにかしらきっかけを提供することで、海士町全体としてCO2排出削減ができないか、個々の住宅の快適性向上に寄与できないかと考えた末、まずは『家の断熱』が、光熱費(CO2)の削減、健康、経済、そして未来にどうつな
がるかといった知識をまずは知ってもらいたいと考えました。そこで、この分野の先駆者として断熱化を推進するエネルギーまちづくり社の竹内昌義氏に依頼し、2023年9月「断熱が支える島の未来」と銘打った講演会、そして12月に断熱DIY教室を開催するに至りました。

 

専門家のサポートのもと技術を身に付けるワークショップ

断熱DIYは、完璧を目指す断熱は難しくとも、今より快適に、今より少ないエネルギーで暮らすことを自分できるようになることを目指します。ただ、正しい方法で行わないと効果を発揮できないという難しさもあります。
企画に際し林さんは、断熱畳、ポリカーボネートを使った木製内窓、断熱障子など、町民が自分たちでできる範囲で、なおかつ持続的に効果の得られるものに絞り「専門家の手助けを受けながら正しい技術と知識を身に付ける」ことを大切にしました。

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町民による木製内窓の製作

 

ワークショップでは、参加者に変化を体感してもらえるように、そして手頃な費用で効果が出るように、竹内氏とモノづくりのプロである大工さんのサポートを受けながら町民が自ら取り組めるスタイルを採用しました。まずはじめに竹内氏から正しい知識を学び、その上で自分でやってみる。プロの技術が必要なところは、引退された大工さんにサポートをお願いしました。高い技術をもつ大工さんの技に参加者の歓声も。普段、接する機会がない職人さんと参加者のつながり生まれるという副次効果もありました。

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サーモグラフィカメラで断熱DIYを可視化

このワークショップを力強く支えたのが、フリアーシステムズジャパンのサーモグラフィカメラでした。
「導入を決めたのは、温度を可視化して参加者にDIYの効果を実感してもらいたかったからです」と林さんは回想します。これがあれば、改修のbefore& afterを視覚的に比べることもできました。
「カメラをかざすだけで直観的に寒い場所、改修すべき場所がわかるため、その点でもワークショップに欠かせないものだと考えています。これまで冬場に寒いと感じていても、いざとなるとどこを断熱改修すべきか、あるいは改修を経てどのくらい効果があったのかがとてもわかりづらかったと思います。ワークショップにこのカメラを採り入れたことで、冷気が伝わる場所を確認し、改修前後の比較もその場でできたため、参加された町民の皆さんからは、驚きとともにさらに別の場所も見てみたいなどの声も上がって、断熱に対して強く興味を持ってもらえたと感じました」(林さん)。

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海士町の脱炭素化への取り組みと断熱DIYのその後

海士町役場には、町の再エネや省エネ、脱炭素化の取り組みを行う「里山里海循環特命担当」という部門があります。島は、大規模施設を設置するのが難しく、専門部署を持つ大きな自治体とも状況は異なります。大きな自治体に比べ困難なことが多い中、際立つのが「職員と住民の距離感」です。
地域活動と日常生活の距離が近く、また職員が住民から直接話を聞くことができる土壌もこの町にはあります。「まず行動してみる」という町長の方針も後押ししてワークショップは、脱炭素化を加速させるドライバーの一つとして企画・開催されたものでした。

開催1年後の2024年にその後のお話を伺ったところ、断熱DIYを始める人が増えたとのこと。海士町では断熱DIY促進の補助金を利用し資材購入できることもあり、資材店がDIY用の部材を在庫してくれるようになるなど、嬉しい変化も見られるそうです。

フリアーシステムズジャパンでは教育支援として、カメラによる保全の現場導入サポートや教育を実施。
業界全体で、さらなる安全性・利便性の向上をめざしています。
※記事中の人物の所属、肩書き等は取材当時のものです。

 

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