赤外線サーモグラフィFLIR T640を使った空撮用サーモグラフィ・ドローン
サーモグラフィはこの20~30年で産業界や建設業界の重要なテーマとなっています。 空からのサーモグラフィ検査など、この分野では新たな開発が進んでいます。 ドローンと組み合わせた赤外線カメラは太陽光発電システムの検査に最適です。 赤外線カメラを搭載したドローンは近づくことが難しい建物や送電線のサーモグラフィ検査、消防業務や法執行業務にも利用されています。 この技術は他のさまざまな産業用途、研究開発、最先端の航空考古学、自然・動物観察にも活用できます。
ドローンが登場するまで、大規模な太陽光発電システムの概観を点検するには空中作業車や高架式の撮影用三脚を用いた高い場所や建物からのサーモグラフィ検査という大がかりで小回りの利かない方法しかありませんでした。 スイスの企業Emitec Messtechnik社のBeni Riedi氏はこうした検査方法に不満を抱き、太陽光発電システムや大型ビルを検査するために赤外線カメラを搭載したドローンを考案しました。
Emitec社の計測・検査ソリューション
Emitec社にはemitec datacom(計測、ロギング、分析、最適化、検査、ネットワークとアプリケーション管理)、 emitec industrial(EMC用計測テクノロジー、HF 、サーモグラフィ、アウトプット、信号分析、データ記録、実験室)、mesomatic fiberoptics(光ファイバー計測と接合テクノロジー、光学部品、CATV)という3つの部門があり、商業用の検査ソリューションをトータルに展開してしています。 同社は国際的に有名な50社以上のメーカーの技術を導入しています。 その1つが赤外線サーモグラフィ分野における世界のリーディングカンパニー、フリアーシステムズのサーモグラフィ技術です。
発案から試作まで
Beni Riedi氏は、サーモグラフィに関して、ありとあらゆる高性能赤外線カメラを試してみました。 「遠距離から撮影するため、熱解像度の高い高性能カメラを使用しなければならないことが分かりました」とRiedi氏は言います。 「飛行ソリューションもカメラ同様に信頼できるものでなければなりませんでした。」 そこで彼は、ドローンに精通したパートナーとして、スピーディーでスムーズな空撮を得意とするHelipro GmbHに白羽の矢を立てました。 「当社のドローンホバーは電気モーターを使用しており、軽量なので、ハチドリのような飛行特性を持っています」とHeliproのMarc Baumann氏は語ります。 「だからこそ、最高150メートルもの高さから、これまでにない新たなアングルから空撮できます」
HDビデオ・ダウンリンク
ドローンはHDビデオ・ダウンリンクで複数のモニターへ(例:サーモグラファー用のモニターとドローンのコントロール担当者のタブレット端末へ)ライブ赤外線画像を伝送します。 このために、Emitec社とHelipro社のトータルなソリューションでは赤外線カメラのHDMIポートと独自のHDダウンリンク・ソリューションを利用して、温度情報なしの赤外線動画(必要であれば、MSX画像も含む)を飛行中も途切れることなくHDクオリティで送ります。 Marc Baumann氏が「これだけのクオリティを実現できるところは他にありません」と自慢するのも当然と言えるでしょう。 Emitec社とHelipro社のトータルなソリューションでは、自社開発のカメラ制御機能を利用して、録画しながら同時に温度情報付きの赤外線画像を撮影することもできます。
空中からのサーモグラフィサービス
Emitec社とHelipro社が開発したサーモグラフィの最初の顧客はスイスにあるKrüger + Co. 社のRolf Rutzer氏でした。 同社はこれを利用することで技術的なパイオニアとしての地位を確立し、サービスのラインナップを拡大しました。 Krüger + Co.社は もともと小規模なエンジニアリング会社であったのが今や従業員が250名を超えるまでになりました。 メーカー兼サービスプロバイダーである同社は、建設現場での加熱/乾燥、水害、漏れ検知、建築物理学、空調等を専門としています。 「サーモグラフィ・ドローンを利用することで、私たちはこれまではできなかった大きなビルや太陽光発電システムの検査サービスをお客様に提供することができます」とRutzer氏。 「サーモグラフィ・ドローンは品質保証、保守点検の面ですばらしい成果を上げています。 これによって、お客様向けのバリューチェーンに重要な要素が加わり、環境的にも経済的にも持続可能性を高めることにつながっています」
保守点検は確実に
中・大規模の太陽光発電システムは年1回以上の点検を行う必要があります。 そうすれば、欠陥のありそうなモジュールを取り付け時に検知し、保証期間中にサービスを受けることができます。 こうした初期不良には、製造上の欠陥や輸送中の損傷も含まれます。 操業中に欠陥モジュールを交換する際にも、システム全体の効率性を確保しながら行うことが重要です。 これによって、いかなる欠陥、天候によって生じた損傷もすぐに修復できます。 想定される問題点の概要については、建築・再生可能エネルギー分野向けガイドブック(www.getflir.com/green-guidebook)をご覧ください。
ドローンが特に有効なのは、広いエリアで数多くのモジュールを点検する必要がある場合です。 たとえば、大きな建物の屋根に設置した太陽光パネルで問題が起きた場合、個々のモジュールをメーターで測定していたのでは手間がかかり過ぎます。 太陽光発電モジュールに不具合があると、概して10℃~20℃という比較的高い温度差が生じるため、サーモグラフィが最適です。
高性能サーモグラフィカメラ
離れたところから検査をするため、Beni Riedi氏は解像度の高い超高性能な赤外線カメラを必要としていました。 そこでEmitec社によって選ばれたのがFLIR T640bxです。 640 x 480ピクセルという高解像度の検出器が細部まではっきりと映し出すだけではありません。 途切れることのないオートフォーカス機能も備えています。ドローンの飛行高度はたえず変化するため、鮮明な赤外線画像をストリーミングするうえで重要な機能です。 さらに、カメラのビューファインダー、統合型GPS、コンパス、ライブ・ラインプロファイル機能、スケッチ機能(熱画像、資格画像)、MPEG4、WLAN、Meterlink、サーマルフュージョン、ピクチャー・イン・ピクチャー、MSXなどの機能を備えており、熱画像と視覚画像を組み合わせることで、かつてないほど詳細な熱探査を実現します。
ドローン、カメラ、レンズ、ソフトウェア、トレーニングを含めたフルパッケージ
Emitec Messtechnik社では、フリアーシステムズのサーモグラフィとドローンを組み合わせた独自のフルパッケージをお客様へ提案しています。 優れた空撮画像を実現するのは、25度の標準レンズだけではありません。 パッケージに含まれている45度の広角レンズを使えば、さらに視野が広がります。 問題箇所を絞り込んだら、ドローンが15度のズームレンズで高所から細部の撮影を行います。 ズームレンズは送電線の点検でも威力を発揮します。送電線の問題はきわめて狭い範囲で起きることが多いのに、それを調査するために飛ぶ飛行装置はある程度の距離をとらなければならないからです。
ソフトウェアとトレーニング
このトータルソリューションには、分析用ソフトウェアと3日間のトレーニングセッションも含まれています。 最初の2日間は、ユーザーが飛行装置を安全にコントロールできるよう、HeliproのMarc Baumann氏が講義と実習を通じてドローンのテクノロジーと制御方法を説明します。このトレーニングはサーモグラフィ・ドローンの保険を適用するための重要な要件の1つです。 3日目にはEmitec社のBeni Riedi氏がカメラとソフトウェアのテクノロジーについてユーザーに解説します。ユーザーはサーモグラフィ・スペシャリストとして認定を受けるか、少なくとも十分なトレーニングを受けておく必要があります。
取扱いと天候の影響
もちろんドローンの使用には一定の制約があります。 このシステムは雪、雨、強風の場合は使用できません。 「赤外線による建物の点検では風が吹くと総じて不利なのです。というのも風は建物の表面を冷やすため、結果に誤差が生じるからです」とRiedi氏。 これに加えて、直射日光があたると探知機が損傷する恐れがあるため、ドローン付きカメラは赤外線カメラに直射日光があたらない範囲でしか旋回できません。
Helipro社では、ドローンを適切に機能させるために6カ月のサービス間隔を空けるよう勧めています。 フリアーシステムズの赤外線サーモグラフィカメラは通常、メンテナンスを必要としませんが、 Riedi氏はEmitec社による年1回のカメラの点検、再校正、ソフトウェアのアップデートを推奨しています。
汎用的なオプション
サーモグラフィ・ドローンの設計にあたっては、カメラをできるだけフレキシブルに、かつ年間を通して利用できるようにすることを重視しました。 そのために、モジュラー構造を採用しています。安全に利用できるようカメラをドローンにしっかりと固定し、独自の制御機能とHD映像ダウンリンク機能を装備していますが、こうしたモジュールを簡単に取り外してポータブルのサーモグラフィカメラとして利用することも可能です。 太陽光発電システムの点検はおおむね気温の高い時期に行わなければならないのに対して、建物の熱損失が生じるのは主に寒い季節ですから、ドローンの2つの主要用途(太陽光発電システムと建物の赤外線検査)は両立が可能です。 このサーモグラフィ・ドローンは需要が高いため、投資もすぐに回収できます。
まとめ
Emitec社、フリアーシステムズ、Helipro社はこのサーモグラフィ・ドローンを活かして、効率的なハイテク点検テクノロジーを提供しています。 太陽光発電システムの運営担当者も大規模な建物のオーナーも、専門のサービス提供者が利用するサーモグラフィ・ドローンによって、多大な恩恵を受けます。 サーモグラフィ・ドローンを導入した企業は、この分野で優れた能力を発揮し、画期的なサービスを展開しています。
著者:Thomas Jung、Sales Manager Distribution Central Europe, FLIR Systems GmbH, FrankfurtFrank Liebelt、フリーランスジャーナリスト、フランクフルト
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