省エネ時代の住宅性能評価システムxFLIRサーモグラフィカメラ
J建築システム株式会社のサーモグラフィカメラ活用事例をご紹介
J建築システム(株)は平成4年北海道札幌市で創業以来、 30年以上に渡り木造建築に特化して様々なイノベーションを図ってきた。令和4年時点での累計特許取得数は113件。中でも「J-耐震開口フレーム」は平成15年、(国研)建築研究所主催の初めての耐震コンペで最高賞である「国土交通大臣賞」をはじめ「兵庫県知事賞」や「大熊賞(東大内)」を受賞。公的機関での技術評価取得や、信頼できる工法として評価・認定を受けるなど、数多くの実績がある。今回は、代表取締役手塚氏、室長二川氏、課長柴田氏にお話しを伺いしました。
代表の手塚社長
J建築システムの経営者であり工学・農学博士号を持つ開発者でもある
FLIR:J建築システムは画期的な製品を多数世の中に送り出されてきました。その原動力について、お伺いできますでしょうか。
手塚社長: 私の故郷は紋別市です。祖父が伊達藩お抱えの建築士として駅舎の設計管理に携わっていたという家庭環境や、北海道の北の地で厳しい気候風土※1の中建築物に関心を持つ環境が揃っていたと思います。某大学の研究所に所属し、大手ゼネコンで構造設計を担当、しかし木造に対する思いがあり、地場ビルダーで環境に伴う開発を経てJ建築システム(株)を創業しました。
FLIR: J建築システムの開発、製品は木造建築に特化していると思いますがその理由はなぜでしょうか。
手塚社長: 建築業界に進むなら「木造、特に構造が面白いぞ」という父の言葉、そしてゼネコンで育んだ構造力学等の知識との融合です。大きな被害を生んだ阪神淡路大震災、その後に現地入りした際、開口部の大きい木造建物が全て同じ方向に倒れているのを目のあたりにし「命を守る住宅とは?」について深く考えさせられました。店舗だけではなく、一般住宅においても南側に大きな開口部を設け、北側は耐力壁というパターンがほとんどです。非常に強い地震動を受けた場合、多くの住宅でねじれによる倒壊、柱の引抜きが課題になってきます。
FLIR: そうした想いをイノベーションにつなげる秘訣はあるのでしょうか?
手塚社長: 疑問を突き詰めて考え、熱意を継続して持ち続けることが大事だと思います。先程の開口部の課題では「J-耐震開口フレーム」という耐震アイテムを開発。主にアラミド繊維シートと靭性のある金物で開口部を耐力壁化するものですが、ラーメン構造を木造建築に応用するというアイデアに至りました。このように弊社の多くのアイテムはオンリーワンであり創業当時から木造業界では珍しいイノベーターだったのかもしれません。※2
FLIR: 2015年のパリ協定など世界動向を受けて、国際協力の一環として温暖化対策が進められています。ZEH※など我々一般消費者でも住宅性能を表す用語を目にする機会が増えていますが、最新の住宅省エネ動向について教えてください。
二川室長: 国内では2050年のカーボンニュートラルに向けて、 2025年に全ての建物で省エネ基準への適合義務化、 2024年には新築・既築問わず流通物件※3も含めた省エネ性能表示が努力義務化されます。
FLIR: 義務化となると多くの建築業の方が関心を持たれると思いますが、性能評価の方法について教えてください。
二川室長: 例えば壁の断熱性能を評価する場合U値(熱貫流率)という指標を使用しますが、断熱材の種類や厚さからU値を計算し、基準値よりもその数値が小さいことで適合を確認します。新築の場合、施工が良好であれば計算通りの性能が現場で発揮されることになりますが、経年劣化により性能低下してしまう既存建物の場合、計算で評価することが困難です。そこで、実在の現場において実測し、U値を評価できる技術が望まれてきました。U値を実測するためには室外と室内温度、室内の評価対象となる部位(天井、壁、床)の加重平均した表面温度測定が必要になります。
FLIR: 家全体の性能評価の場合、全ての面を測定する必要がありますか?
二川室長: 新築の場合は各部位のU値が計算値以下であること、既存の場合は代表する箇所を1~2ヵ所決めて測定することで良いとしています。(基本的に測定者の判断)
FLIR: 手作業で性能評価する場合と比べてどのようなメリットがあるでしょうか?
二川室長: 従来の評価方法では建物の一部を壊すなどしてどのような断熱材が使われているのかを確認する必要があり、コストと時間が掛かっていました。また、それでも正しい性能の把握は困難でした。
FLIR:J建築システムではこうした課題を解決し、現場で性能評価ができるJJJ断熱診断という診断ツールを開発しました。開発の背景について教えてください。
二川室長: 平成20年から断熱診断や改修の提案を総合的に行うツールの開発に取り組んできました。今後、増加する断熱改修に対して、ハイテク機器を利用した診断システムによって、効率的な断熱改修の実現と悪徳・悪質業者を排除したいというのが出発点です。平成28年に製品化された「JJJ断熱診断」は(一財)建材試験センターの研究成果や東京大学生産研究所加藤研究室との共同研究がベースになっており、このシステムの診断ロジックは平成30年にISO化、令和4年に
JIS化されています。製品化までには実に8年の研究開発期間を要しています。
FLIR: 製品の特徴としてはどのようなことがあげられるでしょうか。
柴田氏:JIS・ISOを根拠とした信頼性の高い実測による性能評価を行います。システム構成はサーモグラフィカメラ、環境温度計、Jソフトの3種類とシンプルで、計測開始以降はソフトウェアが性能を自動で数値化するため、多くの方に簡単に性能評価を行って頂けるようになっています。
FLIR: 実際にご使用されている方からのフィードバックは如何でしょうか?
柴田氏: ビルダー、断熱施工業者、建材事業者など様々な分野の方々から、例えば自社の提供する建物 性能に自信が持てたといった声や、これまでできなかった断熱改修の提案ができるようになった、断熱改修の受注ができるようになり改修1棟当たりの受注金額があがった、工務店向けに新しいサービス提供をはじめられたなど多くの声を頂いています。
FLIR: エンドユーザーである施主様へはどのような形で性能が見える化されているのでしょうか。
二川室長: JJJ断熱診断では代表する部位の実測U値を、施主様に対してわかりやすく提案するためUA値として建物全体の評価に置き換えています。これにより、燃費や暖冷房費等をシミュレーションすることができ、改修前後の燃費比較等で性能向上を明快にして提案することができるようになっています。断熱性能の実測から改修提案まで簡単に行えますので、ぜひ一度お試し頂ければと思います。
最後に
住宅性能評価の課題を解決するJJJ断熱診断システムはFLIRのサーモグラフィカメラを使用して行われます。FLIR社のE54又はE6xt相当以上の性能があるカメラをすでにお持ちの方はシステムのみの導入も可能とのこと。また本診断を補助金対象とする地方自治体も増えています。
製品に関するご質問、御問い合わせはJ建築システム株式会社までお問い合わせください。
J建築システム株式会社へのお問い合わせはこちら
使用製品
プロフェッショナルサーモグラフィカメラ FLIR Eシリーズ
FLIR Eシリーズは、検査の効率化、プロ仕様のレポート作成、画像や検査結果の迅速な共有を実現したサーモグラフィカメラです。最新の画像性能、通信性能、ソフトウェアを備え、最大効率で検査が可能になります。
※ネット・ゼロ・エネルギーハウス。環境省・国交省・経産省が連携し推進している住宅の温暖化対策
※1北海道は積雪時、建物がトップヘビーになった状態で強風や地震を受けると、倒壊の危険度が大きくなる。
※2 手塚社長は創業後、仕事と大学での研究を両立し博士号を取得。様々な人と良好な関係性を築くのが得意で、研究室在籍時の人脈が製品開発に役立っているという。
※3 中古物件