ガス漏れを検知する赤外線カメラとは?導入するメリットや選び方を解説
可燃性ガスや排出ガスは環境や近隣住民に悪影響を与えるため、企業はガス漏れを効率的かつ正確に特定し、対処する必要があります。
特に、石油精製所や変電所、化学工場などガス漏れリスクの高い施設では、不測のトラブルや事故を防ぐために、適切にガス漏れの点検を行わなければなりません。ガス検知用赤外線カメラは、ガス漏れを素早く検知できるツールとして高く評価されています。
本記事では、赤外線カメラの概要や導入するメリット、選び方のポイントなどを解説します。
ガス漏れを検知するカメラとは
これまでガス漏れは、嗅覚性探知器(吸引式ガス検知器)で検知することが一般的でした。しかし、嗅覚性探知器には「検知に時間がかかる」「検知ミスが発生しやすい」「点検箇所に近づく検査員や作業員に危険が伴う」など、精度や安全面で懸念があります。
そこで注目を集めているのが、ガス漏れを検知できる赤外線カメラです(以下、ガス検知用赤外線カメラ)。ガス検知用赤外線カメラとは、対象物の全体像をビューファインダーやスクリーン上に写し、ガス漏れを煙のように映像化・画像化できるカメラのことです。
検知がリアルタイムかつ正確であり、記録や保存も簡単にできることから、石油精製所や変電所、化学工場や製鉄所など幅広いシーンで活躍しています。
ガス漏れを検知する仕組み
ガスは特定の波長の赤外線を放射しており、ガス検知用赤外線カメラはそのガスを直接撮影します。あるいは、ガスの背景にある物体から放射される赤外線がガスに吸収され、残った赤外線エネルギーがカメラに入射します。ガスの有無で画像に差が生じるため、その差をガスとして認識することでガス漏れを検知できる仕組みです。
このように、ガス検知用赤外線カメラは、赤外線を利用することでガスを可視化しています。
ガス漏れが起こりやすい場所
生産設備や装置が多い施設や工場では、ガス漏れの経路や箇所は何通りも考えられます。
なかでも特にガス漏れが起こりやすい場所は、下記のとおりです。
・プラグ ・機械装置 ・パルプ軸
・フランジ ・キャップ ・排水管の蓋
・機器の接合部 ・カップリング
・ポンプのシール ・パッシングバルブ
・設備や機器に開いた穴
ガス検知用赤外線カメラは広範囲を点検できるため、短時間でガス漏れ箇所を特定でき、迅速な処置や修復が可能です。
検知できるガス漏れの種類
ガス検知用赤外線カメラは、測定する赤外線の波長によって、検知可能なガスの種類が変わります。裏を返せば、ガス漏れが発生していても、測定できる波長が合わなければ検知できません。
ガス検知用赤外線カメラで利用されている波長には、中波長域と長波長域の2種類があります。
ここからは、測定波長ごとに検知できるガスの種類について解説していきます。
中波長域
中波長域を利用したガス検知用赤外線カメラの測定波長は3〜5μmです。
検知できるガス種などは下記のとおりです。
・メタン ・エタン ・エチレン
・へプタン ・ヘキサン ・ベンゼン
・オクタン ・ペンタン ・へプタン
・プロパン ・トルエン ・キシレン
・一酸化炭素 ・二酸化炭素 ・ブタンガス
・メタノール ・イソプレン ・プロピレン
・エチルベンゼン ・メチルエチルケトン
・メチルイソブチルケトン
長波長域
長波長域を利用したガス検知用赤外線カメラの測定波長は8〜11μmです。
検知できるガス種などは下記のとおりです。
・メタン
・エチレン
・アンモニア
・各種冷媒ガス
・六フッ化硫黄(SF6)
・メチルエチルケトン(MEK)
ガス検知用赤外線カメラを導入するメリット
ガス検知用赤外線カメラには、主に以下5つのメリットがあります。
・広範囲を点検できる
・生産性の低下を防げる
・故障箇所を正しく特定できる
・資産保護や環境保全につながる
・設備再稼働時の安全性を向上できる
ひとつずつ見ていきましょう。
広範囲を点検できる
ガス検知用赤外線カメラを使用すれば、検査員や作業員が直接手の届かない高さにある設備や、肉眼では見えない有毒ガスが漏れているエリアなどに近寄ることなく、ガス漏れ箇所を特定できます。広範囲にわたりガス漏れの兆候を点検できるため、疑わしい箇所を一つずつ確認する手間がかかりません。
危険箇所から離れて作業員や検査員の安全を確保しながら、広範囲の点検と問題箇所の特定ができる点は、ガス検知用赤外線カメラの大きなメリットです。
生産性の低下を防げる
生産設備や製造工程でガス漏れが発生すると、環境や人体に悪影響を及ぼすだけではなく、漏出箇所を特定するまでシステムを停止する必要があるため、生産性の大幅な低下につながります。
ガス検知用赤外線カメラを使えば、システムを停止せずに対象エリアや設備の検査が可能です。さらに、離れた場所から広範囲にわたって漏出箇所を特定できます。
設備やシステムを稼働させたまま、迅速に漏出箇所の特定と適切な修復を行えるため、生産性低下や損失を防ぎ、利益の最大化に貢献するでしょう。
故障箇所を正しく特定できる
ガスは色や形がなく肉眼では見えないため、漏出箇所を間違えたり、複数箇所からのガス漏れを一箇所と誤認したりするおそれがあります。
ガス検知用赤外線カメラであれば離れた場所から対象物の全体をスキャンし、リアルタイムでガスを可視化できるため、ガス漏れ箇所を正確に特定できます。
資産保護や環境保全につながる
可燃性や毒性を持つガスは、工場や施設の作業員や近隣住民の人命に危険を及ぼします。ガス漏れを放置してトラブルや事故などが起これば、多額の損害賠償や罰金を支払わなければなりません。また、六フッ化硫黄(SF6)のような温室効果ガスは地球温暖化の要因の一つであり、環境への被害は二酸化炭素(CO2)の24,000倍です。今後も産業排出ガスに対する規制が厳格化される可能性は高く、日頃の適切な管理が求められます。
このように、ガス漏れは設備や装置の一時的なトラブルではありません。早急に検知・対処することが資産保護や環境保全につながります。
設備再稼働時の安全性が向上する
製造工場や石油化学施設などでは、メンテナンスのために、設備や装置が定期的にシャットダウンされます。また、トラブルで予期なくシャットダウンすることもあるでしょう。
実は、このようなシャットダウンやメンテナンス作業が原因で、これまで異常のなかった設備や装置からガス漏れが発生するケースがあります。
ガスは肉眼では見えないため、ガス漏れに気付かず設備を再稼働させてしまい、重大な事故や設備の損傷などにつながるリスクもゼロではありません。
ガス検知用赤外線カメラは、設備を広範囲にわたって点検し、再稼働前のガス漏れ検知や漏出箇所特定を迅速に行えるため、設備再稼働時の安全性向上に役立ちます。
ガス検知用赤外線カメラ選びで大切なポイント
「何を基準に選べばよいかわからない」という方のために、ガス検知用赤外線カメラを選ぶ際のポイントを4つ紹介します。
・ガスの種類
・調節機能
・設置場所
・感度
ひとつずつ解説していきます。カメラ選びのヒントにしてみてください。
ガスの種類
ガスによって吸収する赤外線の波長は異なるため、1種類のカメラですべてのガスを可視化することはできません。どれだけ高性能かつ高精度なカメラでも、検知できるガスの種類が合わなければ、正確な検知・点検は困難です。購入にあたっては、検知したいガスに対応しているカメラかどうかを確認しましょう。
調節機能
検知ミスを減らし、より少量のガス漏れを検知するためには、調節機能が備わっているかどうかも重要なポイントです。
調節機能の例は、以下のとおりです。
・サーマルチューニング:対象物全体の色を表示できる機能
・温度領域の選択:撮影対象物と同程度の温度に設定できる機能
・高感度モード:カメラの温度感度を効果的に上げる画像処理機能
上記のような調節機能が備わっていれば、測定対象物の輪郭強調や、ガスの可視性を高められるため、ガス漏れ検知の正確性や作業効率を大幅に向上できます。
設置場所
設置場所に適したガス検知用赤外線カメラを選ぶことで、ガス漏れ箇所を特定する速度と精度が向上します。また近年では、点検作業の効率化と安全性向上の観点から、ドローンやロボットに搭載可能なガス検知用赤外線カメラも増えています。
以下を、設置場所に適したガス検知用赤外線カメラを選ぶときの参考にしてみてください。
・固定設置:継続的なモニタリングや、危険箇所の重点的な監視に最適
・ポータブル:さまざまな箇所を効率的に点検可能。緊急時の点検に向いている
・ロボットに搭載:屋内設備の巡回により、点検の自動化が可能
・ドローンに搭載:大規模な施設を上空から効率的に点検できる。飛行ルートの設定により点検の自動化も可能、赤外線ガス検知カメラ ドローン搭載による有効活用はこちら
感度
近年では、環境保全や危険化学物質などに対する規制が強化されているため、「微量ガスの検知」のニーズが高まっています。
例えば、化学工場や食品加工施設の製造工程において、極めて低い濃度のガスが漏出し、製品の品質や生産性を低下させることがあります。
こうした事態を招かないためにも、カメラにはわずかなガスでも正確に検知できる感度が必要です。購入にあたっては、ガス検知用赤外線カメラの感度を確認しましょう。感度は「検知できる最小値や最小量」「ガス感知」「検出下限」などの項目で、「%」や「ppm」の単位で記載されています。
ガス検知用赤外線カメラの注意点
ガス検知用赤外線カメラは、離れた場所から広範囲を点検できますが、ガスのなかには有毒なガスや人体に悪影響を及ぼすガスも存在します。
利用する際は、以下の点に注意しましょう。
・バッテリー交換は、オペレーションエリア外でのみ行う
・ガス漏れを検知したら、無闇に近づかず、離れた場所から動画を撮影する
・(ハンドヘルドタイプ利用中は特に)両手が使える状態でハシゴや階段を登る
・大量のガス漏れや危険を検知した場合は、点検作業を速やかに中断し、その場を離れる
そのほかにも、シチュエーションや環境などによってさまざまな注意点があるため、製品説明書や製造元の指示に従って安全に使用することが大切です。
ガス検知用赤外線カメラの活用事例
ガス検知用赤外線カメラの活用事例を、検知できるガスの種類とあわせて紹介します。
・石油精錬所や石油工場:メタン、冷媒ガス、エチレン
・発電所や変電所:六フッ化硫黄、アンモニア
・冷蔵施設や食品加工工場:アンモニア
・自動車工場:冷媒ガス、六フッ化硫黄
・石炭や天然ガスプラント:メタン
・製鉄所:一酸化酸素
このように、事故や災害防止の観点から、ガスを含む可燃物漏出の早期検知と迅速な措置を行うため、ガス検知用赤外線カメラはあらゆる産業・シーンで活用されています。
まとめ
本記事では、ガス検知用赤外線カメラの概要や導入するメリット、選び方のポイントについて解説しました。
企業の生産活動で排出されたガスは、放置すればトラブルや事故、環境汚染などの原因となります。早期検知と迅速な措置を行うためには、定期的かつリアルタイムなガス漏れの点検が欠かせません。しかし、従来の嗅覚性探知器では、工場や施設内の設備や装置を1点ずつ点検する必要があるため非効率的であり、危険も伴います。
ガス検知用赤外線カメラであれば、リアルタイムかつ安全に広範囲の点検が可能です。
フリアーシステムズでは、お客様の要望を叶える最適なカメラを多数取り揃えています。「効率的かつ安全にガス漏れを検知できるカメラが欲しい」「メンテナンスのコストを削減できるカメラに切り替えたい」など、各種カメラの導入を検討している方は、お気軽にご相談ください。