赤外線ガス検知カメラ ドローン搭載による有効活用
プラント設備の老朽化の進行と労働人口の減少に伴う設備の維持管理低下懸念に対応し、プラント設備の維持管理向上を目指して経済産業省ではプラント設備の高度保安技術(スマート保安)の取組みが進められている。
プラント設備の安全・安定操業確保(スマート保安)において、事故・災害防止の観点から設備からの可燃物漏洩の早期検知と迅速な措置は重要な課題である。
可燃物質(ガス)検知作業を含めた設備の点検はプラント設備運転員(以下運転員)の現場巡回時の点検業務である。常温で液体の可燃性物質の漏洩検知は目視及び臭気などでの検知が可能なため、主に運転員の五感による点検がおこなわれているが可燃性ガスの漏洩は目視による検知ができないため運転員が携帯した吸引式ガス検知器を使用した検知作業を実施している。
使用される吸引式ガス検知器は、該当箇所付近のガスを吸引して検知するため、設備の漏洩懸念箇所に近接して点として検知しているが、近年赤外線ガス検知カメラによって接近せず隔離距離を維持した状態で漏洩懸念対象箇所を面として撮影してガス漏洩箇所を検知する手法が多く採用されており、吸引式ガス検知器に較べ広範囲の検知が可能でありまた近接せず距離をとっての検知が可能ということから爆発混合気生成エリアに接近せず安全にガス漏洩箇所の検知が可能という特徴がある。
しかし一般的な赤外線ガス検知カメラは運転員が手持ち(ハンドヘルドタイプ)で対象設備を撮影し、撮影画像から漏洩箇所を確認するタイプであるため、広範囲のプラント設備の点検に時間を要し高所や配管ラック内など運転員によるガス検知困難な作業箇所も存在し、プラント設備全体を網羅的に可燃物ガス検知がなされているとは言えない状態である。
そこで山九㈱では、高所など運転員によるガス検知困難箇所においても撮影可能な赤外線ガス検知カメラを搭載したドローンシステムを開発したので、内容を紹介する。
このような状況のもと、山九㈱では日本ゼオン株式会社水島工場殿より可燃物漏洩による重大事故の未然防止のため可燃物漏洩点検業務効率化に関する依頼を受け、日本工業検査㈱、ルーチェサーチ㈱と共同で赤外線ガス検知カメラ搭載ドローンを開発し、ガス検知スクリーニング飛行を実施した。
ガス検知器の選定
山九㈱ではドローンにガス検知器を搭載するにあたり、吸引式ガス検知器と赤外線ガス検知カメラとにおいて各々のメリット、デメリットを検討し選定を実施した。「吸引式ガス検知器を使用した漏洩点検の場合、設備の限定された狭小なエリアを検知・確認していくため所要時間を要しているが、赤外線ガス検知カメラでは、距離をとった状態で広範囲の点検が可能であることからガス検知スクリーニングに適している。
一方吸引式ガス検知器の場合、前述の通り接近してガスを吸引する必要があるが、非防爆仕様のドローンは稼働中プラント上空への進入飛行ができず、ドローンでのスクリーニングでは隔離距離を保持する必要があることから吸引式ガス検知器搭載ではスクリーニング検査が困難である。従って隔離距離を維持したガス漏洩検知が可能な赤外線ガス検知カメラは活用可能と判断し、ドローンに搭載することとした。」と山九の大山氏は言及しています。
また、「赤外線ガス検知カメラの機種選定にあたっては、検知対象ガスの種類、検知精度、カメラ本体のサイズ、重量と画像伝送方式等について国内、海外の赤外線ガス検知カメラメーカーの機種を調査、検討を行なった結果、石油精製、石油化学や化学工場で大量に取り扱われている可燃物(有機炭化水素)を検知できること、可視画像、熱画像撮影の撮影およびガス検知が可能であることから、ドローンに搭載する赤外線ガス検知カメラとしてTeledyne FLIR社の赤外線ガス検知カメラを選定した」。とのことでGF320が選定された。
赤外線ガス検知カメラ搭載ドローンの開発搭載する赤外線ガス検知カメラは日本工業検査㈱所有のGF320を活用した。ドローン開発を実施するにあたりドローンメーカーとして、ルーチェサーチ㈱ (本社:広島県広島市)の、SPIDER-UD8を選定した。主な仕様は下記である。また赤外線ガス検知カメラGF320を搭載したドローンを上記写真にて提示する。
「赤外線ガス検知カメラで検知される漏洩ガスは蒸気漏洩のような検知画像となるため、画面上ではガス漏洩か、蒸気の漏洩なのか判別がつかない。
そこで、ドローンに搭載した可視画像カメラにより赤外線ガス検知カメラと同画角で対象設備面撮影して、可視画像を確認することで蒸気漏洩等の誤検知を防止する仕様とした。」と大山氏は話す。
日本ゼオン㈱水島工場殿での実証飛行
(1)配管ラックスクリーニング検査を実施した結果、ガス の漏洩箇所を認めなかったが、赤外線ガス検知カメラの 性能確認のため、数十m離れた位置から微量のガスを放出 して検知性能を確認した結果、放出ガスを画像として検知するとともに拡散状況を記録した。
(2)配管ラック(3段ラック)2個所(①区間 400m、②区間 420m)のスクリーニング検査飛行に要した時間は、1設備当たり40分程度(往復飛行及びバッテリー交換の時間を含む)程度であり、運転員が配管ラック内に入って点検に要する時間を5時間程度と想定すると作業時間の 約80%削減が可能となる。ドローン飛行準備時間を考慮しても従来の点検作業時間の 60%削減が可能となることを確認し、実証結果に基づき、赤外線ガス検知カメラ搭載ドローンを活用した漏洩ガス検知スクリーニング飛行は有効であることを検証できた。
プラント設備の現場でのガス検知スクリーニング飛行を実施した結果大山氏が上記の通り話されたように、ドローン搭載でのガス検知が非常に有効であると確認された。
また作業員が実地にカメラを持参して業務を遂行するよりも点検作業時間において約60%以上の作業時間削減が可能となり、また、危険な配管ラック内での作業を行なわずにすむことなどの点でも非常に有効であることが確認された。
最後に大山氏は今後の方策として、
- 画像上でのガス漏れ部分が色別できるようなアルゴリズムの開発
- メーカーによるドローンの防爆仕様早期開発と運用実現への協力
- 飛行中ドローンのトラブル時の対応とメーカーによる安全降下技術の開発への協力などを示唆された。
山九(株)メンテナンス技術部ではプラントのメンテナンスのDX(トランスフォーメーション)に向けて数々の取り組みを行っている。その中でドローンを活用したメンテナンスにも積極的に取り組んできた。
グループ会社である日本工業検査(株)と共同で今回紹介した漏洩ガス可視化センサー以外に、超音波厚さ計を搭載し高所での鋼板の板厚を可能とする装置を開発しており、2021年中に実用化し2022年よりサービスを提供する予定である。
今後はさらに多様なセンサーを搭載したドローンを開発し、高所点検の効率化を計画している。 例えば、レーザーと電磁波レーダーや渦電流センサーを用いて塗膜厚さや耐火モルタル・耐火レンガの厚さを非接触で測定する検査装置など、従来の目視でのひび割れや表面の3D測定だけでなく、絶対的な厚さ評価と組み合わせることで健全性の評価をより高度なものとして行けると考える。
フリアーシステムズジャパン株式会社としてもこのようなプラント設備の安全操業や業務効率改善などに貢献できるよう、今後も製品開発を続けていく所存である。
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