東京大学 アト秒レーザー科学研究センター大学 サーモグラフィカメラ活用事例
東京大学 大学院理学系研究科 アト秒レーザー科学研究センター
サーモグラフィカメラ活用事例
ファイバーレーザーの発熱を計測し、より高いパワーを出すための最適化に活用
加熱限界を超えて機材が破損するリスクを考えるとサーモグラフィカメラ導入の費用対効果は高い。
東京大学 大学院理学系研究科 アト秒レーザー科学研究センターは、ファイバーレーザーのゲインファイバーにかかる発熱を計測し、限界温度を超えると起きる機材の破損や、破裂による作業者の怪我を未然に防ぐために、サーモグラフィカメラを活用。学生実験の際の指導や、現場での応用の際の作業者の安全向上、装置自体の性能向上などに役立てています。
今回はアト秒レーザー科学研究センター 特任准教授であるアマニ レザ氏にお話を伺いました。
東京大学 大学院理学系研究科 アト秒レーザー科学研究センター
アマニ レザ 特任准教授
ファイバーの破損を防ぐために温度上昇を監視したい
アマニ レザ氏は、高出力レーザー開発で物理化学分野の発展に貢献するとともに、産業との連携も同時にはかる研究を行なっています。レーザー加工は、加工できる素材が幅広く、高精度で超微細な加工が可能なことから、半導体業界を始め、幅広い業界で導入され、様々なシーンで活用されています。なかでも、アマニ氏が取り組んでいるファイバーレーザーは、エネルギー変換効率が高く、安定性・信頼性に優れています。また、ファイバー内に光を閉じ込めているため、クリーンルームが必要なく、電気制御可能で取扱いが容易であるなどのメリットがあり、注目されています。
ゲインファイバーと呼ばれる光ファイバーのコアには、Er (エルビウム)とYb(イッテルビウム)がドープ(添加)されており、22W以上のシングルモードレーザーを取り出すことができますが、励起させるとすぐに加熱してしまいます。ファイバーは一定温度以上になると、まずは膨張し、次に破裂します。そうなれば、機材自体が使いものにならなくなりますし、怪我をする恐れもあります。こうしたリスクを未然に防ぐためには、ファイバーレーザーのゲインファイバーにかかる発熱を計測し、限界温度に対してアクリレートコーティングと呼ばれるクラドの外側のプラスチックが破壊される前に、実験を止めなければなりません。しかし、最初につくるときには、どの時点で限界温度を超えるかわかりません。そこで、温度上昇を監視する手段として導入したのが、Teledyne FLIRのサーモグラフィカメラだったのです。
ErとYbイオンがドープされたゲインファイバー。コンバイナーを通して、このゲインファイバーに976nmのマルチモード励起レーザーをカップリングし、共振器を完成したら、1560nmの中心波長で発振し、22W以上のシングルモードレーザーを取り出すことができる。このようなレーザー装置をレーザー加工、中赤外レーザー装置の励起、光通信の分野等に応用できる。
Er-Ybイオンがドープされたゲインファイバーが励起されると、緑色の蛍光を発生する。
蛍光が強ければ強い程、励起レーザーの吸収が高く、発熱量も高くなる。
解像度が高く、解析が容易なTeledyne FLIRを選択
もともと研究室にあったサーモグラフィカメラでの計測を試みましたが、低画素だったため画像分解能の限界で実際の温度よりも低く数値が出ることがあり、使えなかったと言います。
前職で薄ディスクレーザーの研究をしており、そこでFLIRの高画素のサーモグラフィカメラを使用していたこともあり、FLIRのカメラのメリットはよく知っていました。ファイバーは外側のアクリレートコーティングと呼ばれるプラスチック部分を含め250μmという細いものなので、ある程度の分解能がないと、温度を正確に測ることができません。しかし、現職は着任して1年あまりで、研究室も立ち上げたばかりです。予算の制約もありましたので、ある程度の解像度があり、アカデミック価格で購入できるE54を選択しました。
また、パソコンで解析ができるということも、Teledyne FLIRを選んだ大きな理由の一つでした。るだけではどこが発熱しているのか正確に判断するのは難しいのですが、パソコンに取り込むことで、より詳細な解析ができるというのも利点です。
ご導入頂いたカメラ:
ポータブルサーモグラフィカメラ FLIR 54
FLIR E54はフリアーシステムズ初のガンタイプサーモグラフィカメラであり、320×240ピクセルの赤外線解像度で微小な温度差の対象物の温度分布を明確に表現。MSXによる画像補正により、クラス最高の鮮明画像を生成します。交換可能な望遠・広角レンズはさまざまなシーンでの調査に役立ちます。また、PCソフトウェアとの接続で、時系列の温度変化も動画での解析・記録が可能です。
加熱限界を見極め、最適化する手順を決定
熱電対などの接触型温度計も使用していますが、サーモグラフィカメラによって分布からどの箇所が高温になるのかの傾向を調べることができるようになりました。
仕様上、ゲインファイバーは80℃までしかもたないということになっていますが、精密に温度分布を測ることができるようになったことで、冷却装置で熱をうまく奪いながら110℃まで使用できるようになりました。加熱限界を見極め、最適化する手順を決められるようになり、機器の破損や作業者の怪我などのリスクをなくすことができるようになったのです。
日本では他の先進国に比べ、研究予算が限られていると感じます。海外では、サーモグラフィカメラはどこでも使われているような一般的なツールで、日本の研究開発でもっと使用されてもよいと思います。今回の研究対象のファイバーでは、加熱限界を超えて壊れた場合は約30万円の機材を再購入することになります。そういう点を考えると、サーモグラフィカメラ導入の費用対効果は悪くありません。
産業界では、別素材のものを1台のレーザーで加工したいなど様々な要望があります。複数素材を加工するには通常より出力を上げなければなりませんが、出力が上がると発熱の問題が発生します。こうした課題にも、サーモグラフィカメラでの熱計測が役立ちます。今後の研究に期待が高まります。
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