高速赤外線カメラ – 速度の必要性

熱電対またはスポット高温計で熱を測定すると、デバイスの熱特性について不完全なイメージしか得られない場合があります。 低解像度または低速度を前提にしていては、高速赤外線アプリケーションの際立った特徴を理解することはできません。 赤外線カメラは、高速の赤外線測定により数千に及ぶポイントを取得し熱の急上昇が見られる場所とその上昇速度を提供します。 適切な赤外線カメラを使用すれば、信頼性の高い測定値が収集でき、研究を支える説得力のあるデータを生成することが可能になります。

赤外線サーマルカメラの種類

現在、一般的に使われている赤外線サーマルカメラは、 高性能の冷却型カメラと低コストの非冷却型マイクロボロメータをベースとしたカメラの2種類です。 

現在市販されているサーマル冷却型カメラの大半は、インジウムアンチモン(InSb)製の検出器を使用しています。 冷却型カメラは、特定のエネルギー波長帯—通常は約3〜5μmの中波IR波長帯—の光子を数えることによって動作します。 光子はピクセルに衝突して電子に変わり、それが積分コンデンサに蓄積されます。 ピクセルは、積分コンデンサを開放または短絡することによって電子的なシャッターが閉じられます。 FLIR InSbカメラの場合、-20℃〜350℃の対象物に対する標準的な積分時間はカメラの機種によって異なり、6ミリ秒から50μsとなっています。 これらの本当に短い積分時間のおかげで「動きを止める」ことができ、非常な高速で推移する過渡状態の正確な測定が可能になります。


FLIR InSb冷却型カメラで撮影したFA-18ホーネットのストップモーション画像


伝統的な熱電対の赤外線画像

非冷却型カメラは、前述の冷却型カメラに比べて低コスト、小型、軽量であり、電力の消費量も少なくて済みます。 非冷却型カメラのピクセルは、温度によって抵抗が著しく変化する材料でできていて、 その最も一般的な材料としては、酸化バナジウムまたはアモルファスシリコンが使われています。 熱エネルギーはピクセルに集中して向けられ、ピクセルは物理的に加熱または冷却されます。 ピクセルの抵抗は温度によって変化するので、その値を測定すれば、校正プロセスを介して対象物の温度マップが得られることになります。 ピクセルは有限の質量と熱時定数を持ち、 マイクロボロメータをベースとした最新のカメラでは、その時定数は一般的に8〜12ミリ秒となっています。 しかしこれを、8〜12ミリ秒ごとにピクセルが読み出され、それだけ正確な答えが得られるものと解釈してはいけません! ステップ入力に応答する1次システムは経験上、定常状態に達するまでに5つの時定数が必要となります。

時定数と思考実験

マイクロボロメータ検出器の時間応答がどういうものかを考えるに当たり、水が入ったバケツを2つ持っていると仮定して思考実験を楽しんでみましょう。 片方のバケツは氷水で満たして十分に撹拌し温度は0℃、もう一方は100℃で沸騰しています。 マイクロボロメータに氷水を凝視させた後、瞬時に沸騰水(100℃のステップ入力)に切り替え得られた温度をプロットします。 計算を簡単にするため10ミリ秒の熱時定数をハーフタイムに変換すると、約7ミリ秒の値が得られます。


図1. 0℃から100℃遷移時におけるシステム応答、tau = 10ミリ秒、ハーフタイム = 7ミリ秒


図3. 熱過渡に関するInSbとマイクロボロメータの対比


図2. 熱したローラーから剥離する紙の赤外線画像 

このデータでは、マイクロボロメータは7ミリ秒またはハーフタイム1回で50℃、ハーフタイム2回で75℃、ハーフタイム3回で87.5℃などと温度を報告しているのがわかります。 このマイクロボロメータを100フレーム/秒または100フレーム/10ミリ秒相当で読み込もうとするとどうなるでしょうか? カメラは63℃と報告しその誤差は37℃となるでしょう。 カメラはピクセルの温度を正確に報告しますが、ピクセルはそれが見ているシーンの温度に達しないのです。 一般的に、約30フレーム/秒よりも速くマイクロボロメータを作動させるのは意味がありません。

現実世界のデータ

1枚の紙を60℃まで加熱する印刷工程を見てみましょう 紙は50インチ/秒でローラーから送り出され、幅と長さの両方で温度が均一でなければなりません。

冷却型カメラとマイクロボロメータカメラの両方を使用し、並行してデータを取得しました。 図3から2種類のカメラのデータが著しく異なることがわかります。 マイクロボロメータの温度データは、長さに沿って大きく、比較的安定した変動を示しています。 一方、冷却型カメラのデータは時間の経過に伴って温度が著しく変化しています。 冷却型カメラは、熱せられたローラアセンブリが回転して紙と最初に接触する際に温度が下がる様子を捉えています。 バングバングコントローラは温度低下を感知し、その結果ヒーターコントローラを再度完全に起動します。 その結果、ローラーは設定点に達するまで加熱された後加熱が停止され、その後もそういうプロセスが繰り返されることになります。 R&Dエンジニアはこの1枚のグラフから2つのことを確信しました。製品のテストには冷却型カメラが必要であること、そして、求める設計目的を達成するには単純なバングバングコントローラに代えてPID制御システムをローラーに実装しなければならないことです。 

Photon-counting-detector-camera.jpg

冷却型検出器カメラ(積分時間 66 μs)


マイクロボロメータ検出器カメラ(時定数8ミリ秒)

図4. 冷却型カメラとマイクロボロメータ検出器カメラで撮影した小さなスペースヒーター


積分時間 1ミリ秒での60Hz記録


積分時間 12ミリ秒での60Hz記録

図4. 冷却型カメラとマイクロボロメータ検出器カメラで撮影した小さなスペースヒーター

2番目の例では、高速で回転中のファンのブレードに対してその動きを止め、ブレードの温度を正確に測定しようとしています。 予想されるように、短い露出時間に対応できなければ画像はぼやけてしまい、かといって、真の温度測定値の取得のために動きを止めるわけにはいきません。 (図4を参照)

ブレードの動きを止める冷却型カメラの小さな積分時間の働きに注目してください。これによりブレード表面および加熱コイルの正確な測定が可能となりました。 対照的に、非冷却型カメラにとってはブレードの回転が速すぎて正確な記録は不可能です。 コイルは実際上回転ブレードで遮られた状態になるので、コイルの温度測定値の読みは低くなることでしょう。

同じ問題の最後の例となりますが、それは回転中のヘリコプターブレードの熱効果を測る際に経験するものです。 風の摩擦でブレードに沿って熱勾配が生じ、それはブレードの先端に近づくにつれて増加します。 マイクロボロメータ検出器では、真の温度を正確に特徴付けて温度を測定しようとしても、対象物の動きを効果的に停止することはできません。 (図5および図6を参照)

仕事に合ったツールを選ぶ

ご案内のとおり、対処すべき仕事に合った赤外線検出器を使用することが大事です。 本質的に応答が遅い検出器を選び高速のフレームレートで読み取りを行うと、不良データが発生する可能性があります。 マイクロボロメータは一般的に最大30fpsまで使用できます。 急速な熱過渡またはフレームレート指定の試験では、通常、高性能冷却型カメラを選択するのが最善です。 しかし高いフレームレートが必要ない場合、非冷却型マイクロボロメータカメラを使ってコストを節約することができます。