高速サーモグラフィは動的空間3D技術とサーマルデータの組み合わせ
ドイツの研究者、物体の3D検出のためのカメラシステムを開発
イエナにあるフラウンホーファーIOFの研究者は、2台の高速・高解像度モノクロカメラとGOBOプロジェクターを使用して物体の3D検出カメラシステムを開発しました。衝突試験やエアバッグの展開などの一般的な動的用途においては、高速空間処理だけでなく温度変化の解析も必要です。イエナの研究チームは最近、最大1000フレーム/秒の速度で記録できる真の3Dサーマルイメージングシステムを構築することを目標とする共同測定プロジェクトの一環として、FLIRの冷却型高性能サーモグラフィカメラを使用してシステムをアップグレードしました。
フラウンホーファーIOF - 光によるソリューション
イエナにあるフラウンホーファー応用光学・精密工学研究所(Fraunhofer Institute for Applied Optics and Precision Engineering(IOF)、www.iof.fraunhofer.de)は、フォトニクス分野で目的指向の調査研究を実施し、光の生成や操作から応用までの光の制御のための革新的な光学システムを開発しています。この研究所の業務範囲は、
光機械や光電子のシステム設計から顧客固有のソリューションやプロトタイプの制作までの光学処理連鎖全体に渡ります。フラウンホーファーIOFは、2019年からFLIRのサイエンティフィックカメラを使用する高速3Dサーモグラフィシステムも採用しています。
3Dサーモグラフィシステム
IOFチームは2016年に高速3Dカメラシステムを開発しました。このシステムは、ステレオ配置された2台の高速モノクロカメラとアクティブ照明用の自社開発GOBOプロジェクターで構成されます。研究者はその後、サーモグラフィカメラをシステムに追加しました。このシステムは、最大1000Hzのフレームレート、640×512ピクセルの解像度で動作するFLIR X6900sc SLS LWIRサーモグラフィカメラを使用します。
応用分野と目的
このシステムの目的は、高度に動的な空間3Dデータとサーマルデータを組み合わせることです。運動中のアスリート、衝突試験、エアバッグの展開などの超高速プロセスでは、表面形状の急速な変化だけでなく、局所的な温度変化も起こります。これまで、このような変化を同時に記録することはできませんでしたが、フラウンホーファーIOFの新しい高速3Dサーモグラフィ測定システムによって初めて実現されました。
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システムの仕組み
このシステムは、可視スペクトル範囲(VIS)で感度が高い2台のモノクロカメラに基づいています。このカメラは、12,000Hzを超えるフレームレートと1メガピクセルの解像度で動作しますが、低い解像度ではさらに高いフレームレートでの動作が可能です。ただし、2台のカメラだけでは、必要な品質の有意義な3Dデータを生成することはできません。さらに、ストライプパターンの超高速シーケンスを投影する高度な照明システムが必要です。このパターンは通常の正弦波ストライプに似ていますが、ストライプの振幅が不規則に変化します。
必要な効果を得るために、ガラス枠はクロムの金属ストライプで蒸着被覆されました。このガラス枠を光学ユニットの前のプロジェクター内で回転することにより、両方のカメラの個々のピクセル割り当てに必要なストライプパターンを供給します。この原理は、GOBO投影(GOes Before Optics)と呼ばれます。
再構築された3DデータおよびFLIR X6900sc SLS高速サーモグラフィカメラの2Dデータを組み合わせることにより、3次元高速サーマル画像を簡単に撮影できます。
FLIR X6900sc SLSは、長波長赤外線範囲で動作するため、GOBOプロジェクターのランプが放射する可視波長範囲および近赤外線波長範囲での感度はありません。投影された不規則な正弦波パターンによる物体の加熱もほとんどないため、GOBOプロジェクターのサーマルイメージングへの影響はありません。
測定とデータの計算
3台のカメラはすべて、測定中に画像データを同時に記録します。モノクロカメラからのデータがGOBOプロジェクターの不規則なストライプ投影と組み合わされて実際の3D画像が生成され、通常は10個の画像ペアのシーケンスが計算されて3D画像が形成されます。この「3D再構築」によって空間的形状が生成され、その上にFLIR LWIRカメラのサーマル画像データが重ねられ、マッピング処理で空間座標に温度値が割り当てられます。
校正
もちろん、VISカメラとLWIRカメラで構成されるシステムは、測定前に校正しておく必要があります。この目的のために、IOFチームは白抜き円と塗りつぶし円の規則的な格子の校正ボードを使用します。均一な温度分布の場合にも、VISとLWIRの両方でこの構造が確実に検出されるように、非常に異なる反射度(VIS)および放射率(LWIR)の材料を円と背景に選択しました。イエナの研究者は、プリント基板を使用してこの問題の解決策を見つけました。その際に、研究者は電気部品間の電気的接続ではなく、白抜き円と塗りつぶし円の規則的な格子で構成される非常に希有な回路基板を作成しました。
測定結果:エアバッグとバスケットボール
システムはさまざまなシナリオでテストされました。バスケットボール選手のドリブルのシナリオでは、ボールの変形だけでなく、温度上昇も発生します。もう1つの用途としては、エアバッグが展開された時の温度変化と空間表現の測定があります。システムは、3mの距離から0.5秒間高速プロセスを記録しました。3次元データとサーマル画像情報を組み合わせることにより、展開によってエアバッグがどれほど高温になったかというだけでなく、正確にどの時点にどの空間座標で高温になったかが明確になりました。このような情報は、エアバッグの展開に関連する運転者の負傷のリスクを低減および防止するために役立ちます。
結論と展望
IOF研究チームのMartin Landmannは、次のことを確信しています。高解像度3Dデータと高速サーモグラフィ画像の組み合わせを応用できる用途は数多くあります。「たとえば、衝突試験、変形や摩擦のプロセスの調査、またはエアバッグの展開時の爆発、スイッチキャビネット内などの発熱が伴う非常に高速な事象を観察する際に有益な情報を得ることができます」とMartin Landmannは説明します。彼はシステムは絶えず開発および最適化されていることを強調しています。したがって、フラウンホーファーIOFチームからは、さらに革新的な研究結果が得られることが将来的に期待されます。
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(画像提供:Fraunhofer Institute for Applied Optics and Precision Engineering(IOF)、FLIR)