高速自動車試験の課題を解決する次世代の赤外線技術
より高速の赤外線カメラが設計段階での試験を改善
内燃機関、ブレーキローター、タイヤ、高速エアバッグに関する製品の研究開発は、高速で高感度な赤外線特性試験の恩恵を受ける領域のほんの一部です。 残念なことに、熱電対などの従来形式の接触温度測定は、移動するターゲットに搭載するには実用性に欠け、またスポットガンに代表される非接触温度測定は、 高速で移動するターゲットのストップモーション撮影により正確な温度測定を行うほどの高速性は備えていません。これは、現在の赤外線カメラも例外ではありません。
適切な熱測定とテストのための適切なツールがなければ、自動車設計エンジニアは時間と効率を失い、危険な製品や高価なリコールにつながる欠陥を見逃してしまう可能性があります。 例えば、米国の自動車メーカーは最近、乗客アクティベーションシステムの微少クラックに始まり欠陥インフレータにまで及ぶエアバッグ不具合のため、何百万台の乗用車、SUV、トラックをリコールしました。 これらの欠陥システムはドライバーにとって危険なだけでなく、訴訟、罰金、国民からの信頼の喪失などの形でカーメーカーの収益にも害をもたらします。
次世代の赤外線カメラテクノロジーには、エンジニアにソリューションを提供する可能性があります。 これらのカメラは640×512ピクセルの高解像度検出器を搭載しており、毎秒1000フレームの速さで画像を取り込むことができます。 さらに、ひずみ層超格子(SLS)などの新しい検出器材料は、以前のMCTやQWIP検出器材料より優れた均一性と量子効率を組み合わせることで幅広い温度範囲をカバーできます。 これらの新技術に、リモートでの同期とトリガ機能も加わって、高速自動車テストの課題に対処するに当たりエンジニアや技術員が必要とするツールを提供します。
高速性への取り組み
高速移動する物体の温度測定は、困難ですがやりがいのあるテーマでもあります。 熱電対など従来の温度測定法は、移動中のシステムには実用的ではありません。 スポット高温計などの非接触温度測定には、高速移動体の温度を正確に測定したり、高速ターゲットを正確に熱的に特徴付けるのに必要な高速応答性が欠けています。
非冷却型マイクロボロメーター検出器を備えた赤外線カメラもまた、正確な温度を超高速で測定する能力はありません。 これらのカメラは露光時間が長いため、赤外線画像がぼやけてしまうのです。 非常に高速で動くターゲットの温度を正確に視覚化し値を読み取るには、露光時間が短く高度のフレームレートを備えた冷却型の赤外線カメラが必要です。 高速熱測定に関する各タイプの長所と短所をよく理解できるよう、両タイプの検出器について詳しく見てみましょう。
熱検出器と 量子検出器
熱検出器と量子検出器の違いは、放射された赤外線をセンサーがデータに変換する方法の違いに帰着します。 非冷却型マイクロボロメーターなどの熱検出器は、入射した放射エネルギーに反応します。 赤外線はピクセルを加熱して温度を変化させ、その変化は抵抗の変化として反映されます。 非冷却型マイクロボロメーターカメラの長所は、耐久性と携帯性に優れそして低価格なことです。 しかしフレームレートが低いこと(約60フレーム/秒)、応答時間が遅い(時定数が大きい)ことが欠点です。 このため、非冷却型マイクロボロメーターは高速で動く物体の鮮明な静止画像を生成することができません。 フレームレートと応答時間が遅いと画像がぼやけてしまい、最終的に温度の指示値は不正確なものとなります。 フレームレートが遅いこのようなカメラはまた、急激に発熱する物体を正確に特徴付けることができません。
これに対し、インジウムアンチモン(InSb)、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)、またはSLSで作られた量子検出器は光起電性という特徴を持っています。 これらの検出器の結晶構造は、電子をより高いエネルギー状態に励起する光子を吸収し、これにより材料の導電率が変化します。 これらの検出器を冷却すると赤外線の放射に対して非常に敏感になり、検出器の中には18mKまたは0.018℃未満の温度差を検出できるものもあります。 量子検出器はまた温度の変化に素早く反応し、その時定数は数ミリ秒ではなくマイクロ秒の時間スケールとなります。 この短い露光時間と高いフレームレートを組み合わせることで、急激に温度が上昇するターゲットをストップモーション撮影するのに理想的な量子検出器が得られ、正確な温度測定が可能になります。 これらのカメラは一般的に非冷却型のマイクロボロメーターカメラよりも高価で、一般的にサイズも大きくなります。研究チームによっては考慮する必要があるでしょう。
フレームレートが高いだけでは不十分
前にも簡単に述べたように、毎秒数百または数千のフレームを記録する機能は、ストップモーションに必要なものの一部にすぎません。 方程式のもう1つの要素は積分時間、つまりカメラがフレームのそれぞれについてデータを収集するのに要する時間です。
積分時間はデジタルカメラのシャッタースピードに相当するものです。 シャッターが長すぎると、キャプチャした画像内の動きがぼやけて見えます。 同様に積分時間の長い赤外線カメラは、ぼやけた動きを記録します。 例えば、弾むボールは彗星のように見えます—動いた後に軌跡を残すのです。
カメラが持つアナログ/デジタル変換器またはチャネルの数、そしてピクセルを高速で処理する能力も大事です。 高速の赤外線カメラは通常、最低でも16チャネルを備え、処理速度(またはピクセルクロックレート)は遅くとも200MP/秒の性能を持っています。 対して、ほとんどの低性能カメラのチャネル数は4、ピクセルクロックレートは50MP/秒未満での動作となります。
ターゲットの温度は、積分速度、最終的にはデジタルカウントに影響を与える可能性があります。 カメラはデジタルカウントを、ターゲットの温度指示値となる放射輝度値に変換します。 ターゲットが熱くなるにつれて赤外線放射エネルギーの放出が増え、したがって光子の放出が増えます。冷たくなるにつれて光子の放出は減っていきます。 高速フレームレートでは積分時間をより短くする必要があるため、冷たいターゲットを高速フレームレートで正確に測定する方法が課題となります。
もう1つの問題として、前世代の読取り積分回路(ROIC)を使った古いタイプの検出器では、量子井戸の充填率が低いと特性が線形でなくなるという点が挙げられます。 これにより非均一性補正が破綻して画像品質が低下し、温度の測定精度が疑われる結果となっていました。 次世代のROIC設計に基づく検出器は量子井戸の充填率が低くても線形性があり、低温度のターゲットでも高速(短い積分時間)で正確な測定ができます。 このため、高速赤外線カメラでは、低い量子井戸充填率に対しても線形応答性が得られる次世代ROICを装備することが重要になります。
タイミングを正しく捉える
考慮すべきもう1つの要因は、回転するブレーキディスクとの同期や内燃機関の点火など、カメラが外部イベントに同期して起動する機能です。 カメラシステムが内部クロックで動作している場合、検出器の積分開始点とデータ出力はクロックによって設定されます。 積分時間と正確に一致していない場合、イベントの一部または全部を見逃す可能性があります。 独立したトリガシステムを使用すると積分の開始時間とフレームレートを厳密に制御することが可能になり、録画をより正確に同期させることができるようになります。 非冷却型のマイクロボロメーター検出器カメラは、外部から制御できない熱抵抗素子を使用しているためこの機能をサポートしていません。 これが高速赤外線試験に光子計数検出カメラが不可欠であるもう1つの理由となります。
高感度が鍵
冷却型赤外線カメラの特筆すべき長所はその感度にあります。 それはわずか0.02℃の微少な温度変化を検出することができるのです。 通常、非冷却型カメラの感度は約0.03℃で、 0.01℃の差は小さく見えるかもしれませんが、それで感度が30%向上します。 冷却型カメラはデジタルノイズが少ないだけでなく、よりきめ細かい画像を生み出せます。 このような微妙な温度変化を検出する能力は、小さなホットスポットを逃すことなく正確に検出するのに貢献します。
長波長赤外線の長所
非冷却型マイクロボロメーターカメラの長所の1つに、スペクトル範囲が7.5〜14μmに及ぶ長波長赤外線の検出があります。 短波または中波に比べ長波帯にはより多くの光子が通過するため、量子検出器が光子を収集して電荷を生成するのに要する時間が短くて済みます。 具体的には、30℃の黒体は、中波帯4~5μmよりも長波帯8~9μmにおいて約10倍も多くの光子を放出します。 一般的には、量子検出器は短波帯から中波帯の赤外線に対して機能しますが、 ひずみ層超格子(SLS)を使用した検出器は、スペクトル範囲が7.5〜9.5μmの長波長の赤外線を検出します。 検出すべき光子がより多く存在するため、SLS検出器の積分時間はInSb検出器に比べて最大で12倍もの高速性を発揮します。
SLS検出器は他の量子検出器に比べ光子を電子に変換する際の効率が高く、冷たいターゲットの撮像ではよりはっきりとした熱コントラストが得られます。 LWIR SLS検出器の長所は広範囲のターゲット温度に対応できること、そして露光時間が非常に短くて済むことで、これはターゲットが広い温度領域にまたがって熱くなる場合、あるいは空間を高速で移動する場合に有利です。
成功は安全性に直結します
自動車エンジニアリングの設計とテストの段階で赤外線イメージングを利用することにより、研究開発チームはより迅速に弱点を特定し、製品の性能と安全性を向上させることができるようになります。 しかし、カメラの種類とその特徴によりイメージングの成功不成功が左右されることがあります。 最高の速度、感度、および積分時間を備えた冷却型赤外線カメラを選択することで、研究者は経時的な温度変化を高速イメージングにより正確に追跡できます。 これらのカメラを使えばくっきりとした詳細なストップモーションフレームが取得できるので、研究者は温度を正確に測定して製品の熱特性を把握し、問題が発生する正確な瞬間を捉えることが可能になります。